栃木建築社
“弊社のようなホームビルダーにとって、『紹介によるお客様』を安定的に獲得できる環境を整えることはきわめて重要ですが、やはり人間の力だけでは難しい。お客様同士の相関関係を図式化するなどの工夫が必ず必要になります。弊社がSalesforceを導入したのはまさにそのためです”
縮小する住宅市場で勝ち抜くため
”顧客生涯密着型経営”を志向
株式会社栃木建築社は、栃木県鹿沼市に本社を置く、従業員数37名の設計事務所・工務店だ。得意とするのは、工期の長さや粗利の低さから大手ハウスメーカーに敬遠されがちな「デザイン住宅」。住まいへのこだわりの強い顧客層にターゲットを絞り、「ガレージのある家」や「リゾートのある家」など、機能とデザイン性を高水準で両立させた注文住宅を数多く手がけており、この分野で県内随一のホームビルダーとして知られる。
ニッチなジャンルに着目し、2004年の設立以来、順調にビジネスを展開してきた同社。ただ、日本の住宅市場は、人口の減少にともない年々厳しさを増している。バブル期に167万戸に達した年間の新設住宅着工戸数は、2017年には96万戸まで減少。2020年代半ばには70万戸を割り込むとの試算もある。
そうした状況で生き残っていくには何が必要か? そのひとつの答えとして、代表取締役の神山周市氏が実現したいと考えたのが“顧客生涯密着型経営”だ。住宅ビジネスは一度建てて終わりではない。既存客や失注した顧客は、メンテナンスやリフォーム等のタイミングで再度顧客となる可能性を秘めている。また、既存客の紹介で親類や友人が顧客となるケースも少なくない。
「ところが、お客様同士の相関関係やライフサイクルなどの情報は、担当者の頭の中にしかありませんでした。もし、そうした情報を可視化・共有化し、AIやBIと連携させて最適な施策を実行すれば、リピート率を高め、お客様を囲い込むことができると考えたのです」(神山氏)
それを実現する手段として、神山氏は2017年、Salesforceの導入を決意する。
情報の一元化で会議時間60%削減
業務フローを徹底管理し漏れなく対応
同社はまず、顧客や商談に関する情報をSales Cloudに入力。その中には、顧客本人だけでなく、親戚や友人関係など、人物同士のつながりに関する膨大な情報も含まれている。結果、従来は紙やExcelで個別に管理していたため、引き出すのに手間がかかり、また共有の難しかった情報を誰でもひと目で把握できるようになった。Salesforceの運用を担当するマーケティング室の伊藤哲司氏はいう。
「それまで、週1回4時間の経営会議では、数字の確認にほとんどの時間を費やしていました。Sales Cloudによって、ダッシュボードでいつでも数字を把握できるようになり、会議の時間を1時間30分に短縮できただけでなく、本来の目的である経営戦略やお客様対応に関する議論などに使えるようになりました」(伊藤氏)
Salesforceを活用した同社の営業・工務フローは以下の通りだ。最初に、見込み客からのWeb経由の資料請求や問い合わせが、マーケティングオートメーションツールAccount Engagement (旧Pardot)によって自動的にリードとしてSales Cloudに登録・蓄積される。それを受けてインサイドセールス部門がアポを取得、案件化して営業部門に引き渡す。以降、顧客との面談・土地探し・プラン提示・見積り・契約という営業の各フェーズ、着工・上棟・外工・内装工事・引き渡しという工務の各フェーズが続く。
もちろんそうした進捗状況は、Sales Cloudで容易に確認できる。そのため、経営陣や上長が、現場に対してリアルタイムに的確な指示を出すことができる。また、経営上のメリットも大きい。従来は営業担当者の願望や主観的判断にすぎなかった成約の確度が、数値としてはっきりと見えてくるようになったのだ。
さらに同社では、施工後のメンテナンスについてもSales Cloudで徹底的に管理。引き渡しから半年・1年・2年……10年後という7回分のメンテナンスのToDoが自動的に作成され、かつ顧客からの要望等の情報もすべて記録・管理することで、抜け漏れのないアフターフォローが可能になった。
マーケティングでも威力を発揮
紹介率30%→50%達成も視野に
マーケティング面でもSalesforceは威力を発揮している。伊藤氏はいう。 「たとえば、Account Engagement (旧Pardot)のワークフローに沿って、定期的なメールや電話によるイベントへの集客を続けた結果、事前にまったく反応のなかったお客様が、イベント当日に来場してくださった。『メールを何通ももらったので、思い切って来てみました』と。インサイドセールスがきちんと稼働していると確信できました。また、お客様の行動データ等にもとづいて、集客率や案件化率、成約率などをリアルな数字できちんと出せるようになったことも非常に大きな効果です」(伊藤氏)
神山氏は、“顧客生涯密着型経営”をさらに推し進めるため、今後、Account Engagement (旧Pardot)やAIプラットフォームのSalesforceEinsteinをより積極的に活用したい、と意気込みを語る。
「弊社のようなホームビルダーにとって、『紹介によるお客様』を安定的に獲得できる環境を整えることはきわめて重要ですが、やはり人間の力だけでは難しい。AIやBIを駆使して、お客様同士の相関関係を図式化したり、お客様の関心を惹くメルマガを発行したりといった工夫が必ず必要になります。弊社がSalesforceを導入したのはまさにそのためです。現在、売上に占める紹介率は30%程度ですが、来年度の目標である50%を達成することは十分に可能だと考えています」(神山氏)
Salesforceの稼働からわずか1年足らずで大きな成果を挙げつつある同社。顧客に寄り添った経営戦略でさらなる高みを目指す。