SLAとは?締結のメリットと、運用のポイントを解説
各種ITサービスをアウトソーシングする場合に大切なのがSLAです。SLAに規定された内容に応じて、サービスの提供や万一の際の補償がなされますから、契約締結にあたっては慎重な策定と検討が必要になります。
ここでは、SLAのメリットや作成・運用のポイントについて解説します。


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保証するサービス内容や責任範囲を定めるSLA
SLAとは「サービス・レベル・アグリーメント(Service Level Agreement)」の略語です。日本語では「サービス品質保証」あるいは「サービスレベル合意書」などと呼ばれます。
おもに、ITサービスの分野で使われ、通信サービスやクラウドサービス、レンタルサーバーなどの提供を受ける際、保証するサービス内容や責任範囲を細かく規定しておき、それを達成することができなかった場合にはどうするかというところまで定めたものを指します。
つまり、サービスを提供する側と受ける側が、サービスの具体的な内容や、違反した場合のペナルティについて合意した契約、あるいは契約書がSLAとなります。
SLAが必要とされる理由とその背景
製品やサービスを販売する場合、多くは品質保証が付属します。製品であれば取扱説明書とともに保証書が発行され、故障や不具合に対する修理や交換をメーカーが保証します。形のないサービスにも、同様の契約が交わされます。
ところがIT分野では、システムやサーバー運用などを外部委託する際、サービスの提供者と委託者とのあいだで、サービス内容や責任範囲について、双方の見解がぶつかることがしばしば起こっています。システムやサーバーに何らかの障害が起こったとき、それが契約の範囲内なのかどうか、委託者と受託者のどちらの責任とするべきか、お互いの言い分が噛み合わず、会社同士のトラブルに発展することもあるのです。
こうしたことから、SLAの必要性が認識されるようになりました。

成功への道
SLAで得られるメリットは?
SLAでは、サービスの「内容と範囲」「品質」「運用にあたってのルール」の3点について明確に規定します。これにより、サービスの提供者・利用者それぞれに、いくつものメリットが生まれるのです。
ここからは、それぞれの立場ごとのSLAのメリットを解説します。

サービス提供者側のSLAのメリット
サービスを提供する側からすれば、利用者は顧客です。そのため、少々の無理に目をつむっても、要求に応じようという心理が働きやすいものでしょう。しかし、SLAを作成しておけば、そうした曖昧さを排除することができます。さらに、それ以外の面でも、SLAは提供者側にメリットをもたらしてくれます。
- 責任範囲が明確になる
提供するサービスの内容と責任範囲を明確に線引きしておくことで、利用者側の思い込みや実際以上の期待を排除できます。また、自社の責任範囲を明確にしておけば、その中で十分なサービスを顧客に約束することができ、信頼感の構築に役立ちます。
- 説明責任の根拠となる
トラブルが発生したときの対応についてSLAに明記しておけば、それに沿って利用者に説明責任を果たすことができます。また、障害によって約束したサービスを提供できない場合の補償内容を定めておくことで、利用者に安心感を与えることができます。
- 競合他社との差別化を図れる
SLAは、自社のサービスの品質や保証内容を詳しく記した文書です。そのため、自社サービスの優位性をアピールし、競合他社との差別化を図るためのツールとして活用することもできます。
サービス利用者側のSLAのメリット
利用者側が得られるSLAのメリットは「安心感」です。品質や保証内容があらかじめ明確にわかっていれば、サービス提供者の選定基準としても利用できます。
- 一定品質のサービスを得られる
SLAがあれば、「クオリティはこれくらいだろう」というような、品質に対する曖昧な思い込みや期待がなくなり、得られるサービスが明確になります。また、技術の進歩や市場の動きに合わせ、常に一定以上のサービスクオリティを確保できているかどうか、検証する基準にもなります。
- 万一の際の損失補填が可能になる
SLAで責任範囲を明確にしておけば、過去に見られたようなトラブルが起こった際の処置について、提供者側と衝突することが少なくなります。いらぬストレスから解放されますし、万一の際の補償を確保できますから、保険としても機能します。
- サービスの比較基準にできる
SLAは、提供されるサービスの品質を保証するものですから、何らかのITサービスを導入しようとする際の、比較・検討の材料にできます。また、補償内容の手厚さも、検討材料となるでしょう。
提供者・利用者の双方が得られるメリットもある
SLAは、サービスの提供者と利用者、双方のあいだに横たわっていた「曖昧さ」や「明記されない思い込み」を排除し、それらによって起こっていた認識のずれや齟齬を避けるために用いられるようになったものです。
ですから、サービスに対して双方の認識をすり合わせ、それによって無用なトラブルを回避し、双方のあいだに信頼関係を築くことが、SLAの持つ根本的な機能ということができるでしょう。
これは、サービスの提供者・利用者双方に共通の、大きなメリットです。
SLAを作成・締結する際の注意点は?

どんな設定項目を盛り込むべきか
SLAで規定すべき項目には、特に決まったものはありません。サービスの内容や提供形態などに応じて違ってきますが、代表的なものとしては、次のようなものが挙げられます。
<SLAにおける代表的な設定項目>
- 前提条件
- サービス提供者と利用者、双方の役割と責任範囲
- 提供するサービスの範囲、内容と品質
- 計測すべき数値など、運用のルール
- 提供未達時の双方の対応、補償の内容
- 報告や会議の方法など
このほか、必要に応じて、SLAの改定に関する規定や、これらのルールを守れなかった場合の罰則規定などが盛り込まれることもあります。どのような事態が想定され、そのときにどう対応するかということを明記しておくことが大切です。
ただし、あまりに多くの項目を設定してしまうと、運用の手間とコストが膨らんでしまいますから注意が必要です。
設定内容は適正で、実現可能なものか
SLAで設定する内容は、適正で実現可能なものであることが大前提です。自社の能力を超えた提供不可能な内容を提示することは論外ですが、そこまで極端ではなくても、保証する品質の高さと保証範囲については、慎重に検討しておくことが大切です。
利用者からすればより高いクオリティ、より広い保証範囲を望むのは当然ですが、提供者はそれが持続的に提供可能かどうかを見極めなくてはなりません。そうでないと、通常以上の手間と時間、コストがかかり、サービスの提供そのものが難しくなってしまいます。さらに、その状況で何らかのトラブルが起こったら、事後の対応に手が回らず破綻してしまうでしょう。
そうした事態は提供者も利用者も、望むものではないはずです。そのためにもSLAでは適切なレベル、適切な範囲で合意することが重要です。
締結後の運用は、より重要
SLAの代表的な設定項目の中に「計測すべき数値」を挙げましたが、これはサービスレベルを測定するためのものです。
各種ITサービスは実体を持たない代わりに、その性能を数値で測定することができます。ですから、サービスレベルを測定する指標をいくつか設定しておいて、運用開始後は常に監視しておく必要があります。指標が規定の数値を下回ったら、それは合意したサービスレベルに達していないということになりますから、SLAに準拠した措置をとらねばなりません。
SLAは、その内容そのものもさることながら、締結後の運用がより重要になります。そのため、あまりに多くの項目を設定してしまうと、その監視のために多くのリソースを消費し、作業負荷が高くなってしまいます。
監視ツールで負荷の少ない運用を実現
ご説明した監視の負荷を軽減するには、各種監視ツールを導入するのも賢明な方法でしょう。サーバーの状態やアプリケーションの性能を監視するもの、ネットワーク全体からトラフィック状況、通信の品質を監視するものなど、目的に応じてさまざまな監視ツールが存在します。
これらのツールに、締結したSLAのルールを反映させて動かしておけば、常に指標を計測・分析して、サービスレベルを維持できます。万が一不備が起こった際には担当者にアラートを出し、原因の特定や早期の改善・復帰を助けます。
より小さな作業負荷でサービスレベルを厳格に管理するのに、監視ツールは大いに役立つでしょう。
提供者と利用者の双方が納得のいくSLAを締結することが大切
SLAは、サービスの提供者と利用者の双方にメリットがあるものですが、適切な内容と遵守があって、初めてその効力が保たれます。また、締結後の運用では適した監視ツールを活用することで、作業負荷を抑えることも可能です。
サービス提供者と利用者の双方の総合的な判断を基に内容を詰め、SLAを締結・運用することが大切といえるでしょう。

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