ネットゼロとは?考え方やカーボンニュートラルとの違いなどを解説
ネットゼロの基本的な考え方
ネットゼロ(Net Zero)とは、大気中への温室効果ガスの排出量を「ネット=正味(排出量から森林吸収量等を差し引いた合計)」でゼロにすることを意味します。
温室効果ガスの代表例は、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素、フロンガスなどです。温室効果ガスは太陽光で暖められた地表から放出された赤外線の一部を吸収し、熱として大気に蓄積し、再び地表へ戻すことで地球表面の温度を上げる働きをします。この繰り返しで地表と大気が互いに暖めあう、これが温室効果です。
一般的に、温室効果がないと地球の表面温度はマイナス19度まで下がるといわれています。今、地球の平均気温が約14℃に保たれているのは、実は温室効果ガスの働きのおかげです。一定の温室効果ガスは地球環境の維持に必要なものです。一方で、必要以上に増えすぎた温室効果ガスが地球温暖化を招いており、中でも二酸化炭素は温暖化への影響が大きいことがわかっています。
温室効果ガスが増えた原因は、人間の社会活動、経済活動が大きく影響していることから、人為起源の温室効果ガスの排出量を削減することが求められますが、完全にゼロにすることは困難です。そのため、ネットゼロの考え方では、温室効果ガス排出量を出来る限り削減し、削減出来ない最小限の残留排出量を森林吸収等で相殺し、実質ゼロにすることを目指しているのです。
ネットゼロが重要視される背景
ネットゼロが重要視される背景には、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めのパリ協定があります。パリ協定の目標達成のためには、国家のみならず企業や市民の取り組みが欠かせません。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書は、以下の4つを達成しなければ、地球環境に破滅的な影響がもたらされると警告しています。
<地球環境を維持するための4つの条件>
- 温室効果ガス排出量は、遅くとも2025年までに減少に転じる必要がある
- 温室効果ガス排出量は、2030年までに43%削減する必要がある
- メタンは2030年までに約3分の1削減する必要がある
- 世界は、2050年までに実質排出ゼロを達成しなければならない
IPCCは、世界気象機関と国連環境計画が設立した国際的な組織です。最新の科学的知見にもとづいて気候変動の状況を考察し、数年ごとに報告書をまとめて発表しています。2013~2014年の第5次報告書は、2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でのパリ協定採択に大きな影響を与えました。
パリ協定とは、気候変動問題に関する国際的な枠組みで、気候変動枠組条約に加盟するすべての国が削減目標を掲げて参加することを初めてルール化しました。国際条約として長期目標を設定し、世界が目指すべき方向性を示していることも特徴です。
具体的には、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保つことと、1.5℃に抑える努力をすることを求めています。この目標とともに「世界の温室効果ガス排出量をできる限り早くピークアウトし、21世紀後半には排出量と吸収量のバランスを達成する」という明確なビジョンも打ち出されました。
カーボンニュートラルとの関係
ネットゼロと似た考え方にカーボンニュートラルがあります。これらはどのように違うのでしょうか。
資源エネルギー庁の定義によれば、カーボンニュートラルとは二酸化炭素のみでなく、メタン、一酸化二窒素、フロンガスを含む温室効果ガスを対象として、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることです。
温室効果ガスの削減には、化石燃料を使わない再生可能エネルギーが効果的ですが、天候の影響を大きく受けることから、電力をこれに完全に依存することはできません。そのため、化石燃料の使用をゼロにすることは難しく、排出せざるをえない分と同じ量を吸収、または除去することで均衡した状態を作るのがカーボンニュートラルの考え方です。ネットゼロは「正味ゼロ」を意味しており、若干定義は異なるものの、ほぼ同義で使われていると考えて良いでしょう。
ネットゼロ達成への取り組み
グリーン成長戦略
2050年のネットゼロに向け、経済と環境の好循環をつくることが期待される産業分野について、国の実行計画をまとめたものがグリーン成長戦略です。ネットゼロに向けた技術開発や設備投資などに対して支援が実施される、グリーン成長戦略の対象の3領域14産業は下記のとおりです。
■グリーン成長戦略の対象の3領域14産業
産業領域 | 具体的な産業 |
エネルギー関連産業 |
洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)、水素・燃料アンモニア産業、次世代熱エネルギー産業、原子力産業 |
輸送・製造関連産業 | 自動車・蓄電池産業、半導体・情報通信産業、船舶産業、物流・人流・土木インフラ産業、食料・農林水産業、航空機産業、カーボンリサイクル・マテリアル産業 |
家庭・オフィス関連産業 | 住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業、資源循環関連産業、ライフスタイル関連産業 |
地域脱炭素ロードマップ
<エネルギー関連産業>
- 洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)
- 水素・燃料アンモニア産業
- 次世代熱エネルギー産業
- 原子力産業
<輸送・製造関連産業>
- 自動車・蓄電池産業
- 半導体・情報通信産業
- 船舶産業
- 物流・人流・土木インフラ産業
- 食料・農林水産業
- 航空機産業
- カーボンリサイクル・マテリアル産業
<家庭・オフィス関連産業>
- 住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業
- 資源循環関連産業
- ライフスタイル関連産業
国が進めるグリーン成長戦略は基金の設立や税制面での支援などさまざまな取り組みがあります。グリーン成長戦略による支援の取り組みは下記の4つです。
■グリーン成長戦略による支援の取り組みと内容
取り組み | 内容 |
グリーンイノベーション基金(2兆円・最長10年間)の創設 |
脱炭素をビジネスチャンスととらえて革新的技術の研究開発に取り組む企業に対し、開発から社会への実装までを支援 |
投資促進税制 | 脱炭素化効果が大きい製品の⽣産設備の導入、生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両⽴する設備の導⼊について、最⼤10%の税額控除または50%の特別償却措置を講じ、民間投資を喚起 |
金融市場の整備 | すぐには脱炭素化が難しい多排出産業の低炭素移行に必要な技術に資金提供するためのロードマップの作成、TCFD等に基づく開示の質と量の充実などにより、低炭素化や脱炭素化に向けた革新的技術へのファイナンスの呼び込み |
規制改革、標準化 | 洋上風力といった再生可能エネルギーが優先して入るような系統運用ルールの見直し、自動車の電動化推進のための燃費規制の活用、水素ステーションに関する規制改革等により、需要を創出し価格を低減 |
ZEB
「ZEB(Net Zero Energy Building)」は建物でエネルギーを作り、同時に建物内で使うエネルギーを減らすことで、消費する年間エネルギーのネットゼロを目指す建物です。人が暮らしたり、働いたりする建物の中では、電気やガスなどのエネルギーが大量に消費されているのです。人が活動している限り、このエネルギーをゼロにすることはできません。
ZEBを実現するには、以下の3つの方法があります。
- パッシブ技術の活用
パッシブ技術は、機械に頼らず、光・風・熱といった自然エネルギーを最大限活用して快適に過ごせるようにする建築技術です。暖房に使われたエネルギーで換気をしたり、可動式のルーバーで季節に応じた日射量の調整をしたりして、少ないエネルギーで暮らし心地の良い環境を作ります。
- アクティブ技術によるエネルギーの活用
アクティブ技術はエネルギーを効率的に利用・管理するための技術です。パッシブ技術で補いきれない環境では、アクティブ技術を活用して、無駄なくエネルギーを使用することで快適性を向上させます。
- エネルギー使用時の創エネ技術活用
太陽光発電やバイオマス発電など自然の力によってエネルギーを作り出すことです
ZEH
「ZEH(Net Zero Energy House)」とは、エネルギー収支をゼロ以下にする家のことです。家庭で使用するエネルギーを極力減らし、使用するエネルギーは太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーで代替し、1年間で消費する総エネルギー量を実質的にゼロ以下にします。ZEHを実現するには家庭で使用するエネルギーを大幅に削減する必要があります。
ZEHによって住宅の省エネを進めることは、ネットゼロの実現にも非常に有効です。2014年に閣議決定した「第4次エネルギー基本計画」では、2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指すとしています。また、2021年に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」では、2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指すとしています。補助金制度等の普及に向けた取り組みが進んでいることから、今後は「ZEH基準」の住宅が増えていくことが期待できます。
ネットゼロに向け、企業の取り組み推進は喫緊の課題
ネットゼロの達成に向けて、企業にも温室効果ガス排出量の把握や適切な管理が求められるようになりました。一方で、企業活動において温室効果ガスの管理を、自社だけの取り組みで完結することは困難でしょう。
Salesforceでは企業の温室効果ガスの管理や削減への取り組みに貢献するNet Zero Cloudを提供しています。Net Zero Cloudはエネルギー消費や二酸化炭素排出量などの可視データ化や、削減ポイントの特定などが可能で、排出量の削減を効果的に進めることができます。また、自社だけでなく、サプライヤーと繋がり協力して削減に向けた対策を進めていくための機能も備えており、サプライチェーン全体でネットゼロに向けた温室効果ガスの削減を効果的に推進したい企業はSalesforceのNet Zero Cloudの詳細についてご確認ください。