営業情報の可視化・共有で
個人の力に依存していた
建築営業文化を刷新
使いやすい画面を整え、営業情報をChatterでリアルタイムに共有
Salesforceを核にした顧客情報基盤を確立し案件獲得率の向上を目指す。
1. 営業活動記録システムが長年存在しなかった
明治7年(1874年)の創業以来、約150年に渡って国内外の社会インフラ整備を手掛けてきた西松建設。道路やダムといった公共インフラはもちろん、オフィス・住宅・商業施設の建設など、高度な技術力で安全・安心な社会の実現に貢献してきました。2022年6月には「西松DXビジョン」を策定し、翌月に経済産業省の「DX認定事業者」認定を取得。「現場」「ワークスタイル」「ビジネス」の3分野で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に取り組んでいます。
「DXという言葉が出る前から、建築営業の課題の克服に取り組みたいと考えていました。西松建設では、組織より個人の営業力に依存してきた文化があります。以前は営業日報すら存在しない状況で、営業活動の振り返りや情報共有がまったくできない状態だったのです」。こう語るのは、西松建設常務執行役員で建築事業本部兼アセットバリューアッド事業本部 副本部長を務める井上貴文氏です。
営業活動を記録する仕組みが存在せず、日々の営業活動についての報告は個人に委ねられていたため、あらゆる場面で課題が発生していました。社員の営業活動をリアルタイムに把握できないため、上長が適切な指示・指導をできずに商談機会を逃してしまう懸念もありました。また本来は会社の“財産”であるはずの企業先人脈に関する情報を、会社の資産として蓄積するのが難しい状況でした。
2. 営業活動の「可視化」と「共有」が大命題
そこで西松建設が導入したのがSalesforceです。目指したのは、営業活動情報をデータとして営業担当者全員がリアルタイムに共有し、営業活動の可視化を図ることでした。
西松建設執行役員で建築事業本部副本部長を務める成田和俊氏は「営業活動が可視化できれば、上長は適切なタイミングで指導し、状況に応じた支援ができます。また、蓄積したデータを分析すれば、各支社・支店間の業績に差異が生じる原因を突き止め、高いレベルで業績を均一化することが可能になります。さらに顧客ニーズの対応経過を把握することで、顧客目線に立脚した提案ができると考えました」と説明します。
選定に当たって重視したのは、既存システムとの親和性と将来を見据えた拡張性、そして日々の営業活動を入力する営業担当者たちの負担にならない操作性です。
西松建設では各企業への見積もりデータをはじめ、設計から資材の調達、工事、施工後のメンテナンスといった建設ライフサイクルに関するすべてのデータと営業活動のデータを連携できることを必須の要件としました。そのため、多様なAPI(Application Programming Interface)連携ができるSalesforceは魅力的だったといいます。
井上氏は「営業活動の過程で、過去の工事データを参照するケースは多々あります。その際に(具体的な)工事名を指定するだけで必要な工事データが一瞬で表示できる仕組みの構築を目指しました。そのためには西松建設が有する膨大なデータを扱える拡張性を備えていることも必要条件です。そうした観点で複数のツールと比較した結果、我々の要望を満たしていたのがSalesforceでした」と説明します。
3. Chatterで活動状況をリアルタイムに把握
西松建設がSalesforceの導入を決めたのは2019年。PoC(概念実証)を経て2023年から順次展開し、現在はすべての建築営業担当者(100名)が活用しています。展開から半年も経っていませんが、「営業活動を記録する」という習慣は定着しつつあります。その背景には「簡単に営業活動を報告する」ための細部にわたったUIへのこだわりがあります。
その1つが、プルダウンメニューから選択入力できるようにして入力の手間を極力減らしたことです。商談フェーズはもちろんのこと、取引先からヒアリングしたニーズもニーズ種別や種別・詳細、さらにお客様と西松建設の関係状況のすべてが選択式になっています。井上氏は「顧客訪問後の移動時間にスマートフォンから操作でき、慣れれば1〜2分で入力が完了します」と、その効果を語ります。
運用しながら本番環境を柔軟に改修できることもSalesforceの強みだと成田氏は評価します。「2週間ごとに要望をとりまとめて改修しています。もちろん大きな改修はパートナー経由で対応してもらっていますが、スクラッチのシステムとは異なり対応が早いのはSaaSならではです。また、社内にもSalesforceに詳しい人材がいますので、簡単な改修は自社内ですぐに対応できます」(成田氏)。
さらに、井上氏が営業統括のトップとしてこだわったのがSalesforceに標準搭載されているビジネスチャットツール「Chatter」による情報共有でした。Salesforce上に行動記録を入力すると同時に、Chatterで上長に報告が届く仕組みを構築しました。上長がどこにいようと必要があれば、上長から連絡が入る状況を作り上げました。もちろん、営業活動で、特に伝えたい情報などはChatterのコメント欄で自由に入力できます。これはレポートにも反映されます。
同社では、日報・週報を自動レポートとして提供。朝7時には前日の日報が、毎週月曜日には週報がメール送信される仕組みを整えました。もちろんニーズの内容によっては、関連するほかの事業本部にもメールが送信されます。顧客のニーズなどを踏まえた営業データを共有することで、事業部内のマッチングの可能性を高めるとともに、事業部の垣根を超えた組織間のコラボレーションができる仕組みです。
「 Chatterで伝えられる情報だけでもかなりの量になるため、情報の整理をつけやすいように上長には、日報・週報として連携されることで、営業の振り返りが効率的にできるようになりました」と説明します。
さらに、個別案件と営業行動を紐付けしておけば、取引先に対して過去に「誰が」「誰と接点を持ち」「どのようなやり取りをしたのか」がすぐに把握できます。「活動履歴を取引先訪問前に確認しておけば、営業活動の重複や引継ぎミスによる取引機会の損失といった事態を回避し、キーパーソンに対する的確なアプローチと効率的な営業活動ができます」(井上氏)。
4. 顧客ニーズを分析することで他部門への提言も
例えば、取引状況と案件内容(魅力)を軸にした四象限で顧客を評価し、関係力の強化や効率的なナーチャリングに役立てるといった施策も考えられます。コンペで獲得できなかった案件について、これまでは継続的にフォローできていませんでしたが、フォロー体制が整えられれば潜在的な顧客を獲得できる確率は高められると期待します。
営業にとっての最終目標は受注成立です。そのためには案件を積み上げ、各案件の確度アップを図っていくことが重要です。「今後はいろいろな切り口で分析し、案件獲得率を上げると同時に、顧客ニーズを分析することでトレンドを把握し、技術部門への提言なども実現していきたい」と成田氏は今後の意気込みを語ります。
井上氏は「目指すのは営業担当者が自発的に活用するシステム」だと語ります。
「いくら入力が簡単だからといって、営業担当者は自分たちに“見返り”がなければ、いずれは入力しなくなります。それを防ぐには『Salesforceに入力して情報を可視化・共有すれば、上長や本部から案件獲得のヒントや新たな知見が得られる』といった信頼関係が必要です。そのためには営業担当者の要望やニーズを的確に汲み取り、システムに対して迅速に反映させていくこと。Salesforceならそれが実現できると確信しています」(井上氏)。