革新的なナレッジ管理手法を導入することでACW(After Call Work)が1/3に減少し、ナレッジカバー率90%を達成
95,000件のナレッジ管理とそれを支える、ナレッジ基盤及び人事制度を構築
主に保険加入者や代理店を対象とした保険商品、システム操作に関連するコンタクトセンターを運営するとともに、CoE(Center of Excellence)としてグループ全体のコンタクトセンター戦略も担っている東京海上日動コミュニケーションズ。2018年にいち早く「KCS(Knowledge-Centered Service:ナレッジセンターサービス)」を導入しています。これは米国で開発されたナレッジ管理手法であり、顧客からの問合せに対して迅速かつ適切に回答できるナレッジを、コンタクトセンターで働く全てのオペレーターが共有できることを目的としています。
2019年にはKCSをさらに発展させるため、Salesforce Knowledgeを導入。これにより10万件以上のナレッジを登録してもパフォーマンスの落ちないナレッジ基盤を構築し、オムニチャネル化/タイムリーな分析/シングルコンソール化による業務効率化を実現。オペレーターにもKCSプロジェクトに参画してもらうためKCSに準拠したトレーニングを実施しており、「足りないナレッジは自分で作る」「ナレッジをコンテンツとして改善し続ける」という組織文化を定着させています。
1. 迅速かつ適切に回答できるナレッジを量産し続けるためKCSの導入へ
東京海上日動コミュニケーションズ(TCC)は、主に保険加入者や代理店の問合せを受けるコンタクトセンターを運営するとともに、CoEとしてグループ全体のコンタクトセンター戦略を担う中核企業です。同社は、2018年に「KCS(Knowledge-Centered Service:ナレッジセンターサービス)」を導入しました。KCSとは、米国で開発されたナレッジ管理手法であり、顧客からの問合せに対して、迅速かつ適切に回答できるナレッジを、コンタクトセンターで働く全てのオペレーターが共有することを目的としています。
「KCSの導入検討を開始したのは2016年でしたが、その目的は大きく4つありました」と語るのは、TCC 自動車保険・商品センターと自動車保険・試算センターでマネージャーを務める遠藤 咲子 氏。それは「顧客満足度の向上」、「業務の効率化・生産性向上」、「早期退職率抑制と雇用の安定化」、「FAQの資産化」だと説明します。
「最も重視したのはお客様満足度を高めることですが、そのためにはオペレーター個人の経験や勘に基づく知識をナレッジ化し、新人でも迅速かつ適切に回答できることが第一条件です。しかし実際には新人育成に苦労しており、仕事の難しさから早い時期に退職するオペレーターも少なくありませんでした。このような問題を解決していくには、KCSのような管理手法を導入することで、迅速かつ適切に回答できるナレッジを量産・管理し続けることが必須だと考えました」。
2. KCSの導入で得られた4つの効果
同社はKCSを導入することで、以下の大きな業務改善を実現しています。
- 業務効率化:ACWが従来の1/3に
ACWとは、After Call Workの略で、電話応対後の作業のことを指します。同社ではKCS導入により、ナレッジ自体を応対履歴とすることで、ACWを従来の1/3にすることに成功しました。
- 一次解決率向上:ナレッジカバー率90%
ナレッジカバー率は90%以上にも達しており、基本的に応対履歴を入力することなくナレッジを添付するだけでオペレーションを完結することができます。それにより新人のAHT(Average Handling Time)が400秒削減され、自己解決率も65%→75%に改善することで、早期離職率の低減にも寄与しています。
「お客様からお問合せをいただいたオペレーターは、自分の知識で対応するのではなく、まずその場でFAQ検索を行い、質問に対する回答がFAQに登録されているかどうかを確認します」と説明するのは、TCC 経営戦略ユニットでトップ・コーディネーターを務める富山 美佳 氏です。「FAQを使用した場合には自動的にログと紐づけされ、どのFAQがどれだけ活用されたのか、ログの総数に対してFAQで対応できた件数がどれだけあったか(カバー率)、などが計測できるようになっています」。
- 経験値の標準化:高品質なナレッジを量産する社内オペレーションの確立
新人は必ずナレッジ作成の研修を受けるため、すべての関係者が常に一定の品質でナレッジを量産することが可能です。研修ではKCS Ⅰというナレッジを作成する資格を取得するためのカリキュラムを組んでいます。KCS Ⅰが作成したナレッジは、KCS Ⅱという上位資格者が内容を精査しナレッジを公開する運用とすることで、粗製濫造を防ぎ質の高いナレッジのみ公開することを可能としています。
また要約力研修という、ナレッジをより平準化するための社外研修も取り入れ、ナレッジの高品質化を実現しています。
・モチベーション向上:KCSの資格が人事評価に直結
KCSの資格は人事評価に直結しており、KCS Ⅰ ⇨ KCS Ⅱ→ KCSコーチとランクが上がるにつれ時給が上がる仕組みとなっており、ナレッジを作るモチベーションがコンタクトセンター全体として醸成されています。
以前は「FAQ作成に時間が取られると顧客対応件数が減り評価が下がる」と、FAQ作成に消極的なオペレーターもいましたが、現在ではこのように考えるオペレーターはいなくなったと、富山氏は語っています。
3. 今後はKCSの仕組みを東京海上グループ全体に拡大
なお同社では、パフォーマンス向上やオムニチャネル対応、シングルコンソール化を目的に、2019年よりSalesforce Knowledgeを導入し、さらなる効率化と品質向上を実現しています。TCC 経営戦略ユニットでコーディネーターを務める里田 直弥 氏は、これに関して次のように述べています。
「以前はコンタクトセンター機能とナレッジ管理機能を異なる画面で利用していましたが、Salesforce Knowledgeによって両者の画面が統合されました。またSalesforce Knowledgeであれば、オムニチャネルに対応したナレッジ活用も、シングルコンソールで実現可能です。各種KPIが半自動的に取得・計算され、ダッシュボード機能で一覧できるため、管理職の業務効率化にも貢献しています。以前は毎月30分かけてExcelでレポートを作成していましたが、その必要もなくなりました」。
今後の目標は、TCCで確立したKCSの仕組みを、東京海上グループ全体に広げていくことだと遠藤氏。また顧客向けFAQへの活用なども視野に入っていると言います。
「すでにグループ中核企業である東京海上日動火災保険のカスタマーセンターが、KCSの導入を検討しています。ぜひこの手法を、より多くのコンタクトセンターの方々に知っていただきたいと思います」(遠藤氏)。